職場におけるハラスメント
2023年10月28日
昨今ハラスメントの種類は沢山あります。パワハラにはじまり、モラハラ、カスハラ、マタハラ、パタハラ・・・。
今回は、職場においてありがちなハラスメントとその対策にについてお話します。
目次
職場におけるパワハラ
職場におけるパワハラの定義は、労働施策総合推進法によって以下のように定められております。
職場において
①優越的な関係を背景とした言動であって、
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③労働者の就業環境が害されるものであり、
①から③までの3つの要素を全て満たすもの
なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。
どんなことが行為がパワハラになる?
厚生労働省では、
1)身体的な攻撃
暴行・傷害
※事例として、謝ってぶつかる場合は該当しないと示している
2)精神的な攻撃
脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言
※マナーを欠いた言動や行動を何度注意しても改善しない場合に強く注意した場合は該当しないと示している
3)人間関係からの切り離し
隔離・仲間外し・無視
※新規採用者の育成で、短期集中研修など個室で実施した場合は該当しないと示している
4)過大な要求
業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害
※育成のため少し高いレベルの業務を任せる場合は該当しないと示している
5)過小な要求
業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
※労働者の能力に応じ、業務内容や量を軽減する場合は該当しないと示している
6)個の侵害
私的なことに過度に立ち入ること
※労働者への配慮を目的に、家族の状況などを聞き取りする場合は該当しないと示している
これらの内容は、パワハラと指導という線引きが難しく、厚労省が示した事例については検討が必要だと指摘されています。
職場におけるセクハラ
職場におけるセクハラとは、職場において行われる「労働者」の意に反する「性的な言動」に対する労働者の対応により、その労働者が労働条件につき不利益を受け(=対価型セクシャルハラスメント)たり、性的な言動により就業環境を害される(=環境型セクシャルハラスメント)ことをいいます。
※事業主、上司、同僚に限らず、取引先、顧客、患者、学校における生徒などもセクシュアルハラスメントの行為者になり得るものであり、男性も女性も行為者にも被害者にもなり得るほか、異性に対するものだけではなく、同性に対するものも該当します。
職場における妊娠・出産・育児休業等に関するマタハラ・パタハラ
職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントとは、「職場」において⾏われる 上司・同僚からの言動(妊娠・出産したこと、育児休業等の利⽤に関する言動)により、妊娠・ 出産した「⼥性労働者」や育児休業等を申出・取得した「男⼥労働者」の就業環境が害されることです。
昨今ではマタハラとも言われ、男性に対してはパタハラとも言われています
妊娠の状態や育児休業制度等の利⽤等と嫌がらせとなる⾏為の間に因果関係があるものがハラ スメントに該当します。 なお、業務分担や安全配慮等の観点から、客観的にみて、業務上の必要性に基づく⾔動によるものはハラスメントには該当しません。
防止措置が必要となるハラスメント
(1) 解雇その他不利益な取扱いを⽰唆するもの
労働者が、制度等の利⽤の請求等(措置の求め、請求⼜は申出をいう。以下同じ。)を した い旨を上司に相談したことや制度等の利⽤の請求等をしたこと、制度等の利⽤をしたことによ り、上司がその労働者に対し、解雇その他不利益な取扱いを⽰唆することです。
(2) 制度等の利用の請求等⼜は制度等の利用を阻害するもの
以下のような言動が該当します。
①労働者が制度の利⽤の請求をしたい旨を上司に相談したところ、上司がその労働者に対し、請求をしないように言うこと。
②労働者が制度の利⽤の請求をしたところ、上司がその労働者に対し、請求を取り下げるよう言うこと。
③労働者が制度の利⽤の請求をしたい旨を同僚に伝えたところ、同僚がその労働者に対 し、繰り返し⼜は継続的に、請求をしないように言うこと。
④労働者が制度利⽤の請求をしたところ、同僚がその労働者に対し、繰り返し⼜は継続的に、その請求等を取り下げるよう言うこと
↓↓パンフレット↓↓
事業所におけるマタハラ・パタハラ防止措置の義務
男⼥雇⽤機会均等法第11条の3及び育児・介護休業法第25条では、職場における妊娠・出産・育児 休業等に関するハラスメントについて、事業主に防止措置を講じることを義務付けています。
<男⼥雇用機会均等法(抄)>
(職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する雇⽤管理上の措置等) 第11条の3 事業主は、職場において⾏われるその雇用する⼥性労働者に対する当該⼥性労働者 が妊娠したこと、出産したこと、妊娠⼜は出産に関する事由であって厚⽣労働省令で定めるも のに関する⾔動により当該⼥性労働者の就業環境が害されることのないよう、当該⼥性労働者 からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を 講じなければならない。
2 第11条第2項の規定(P7参照)は、労働者が前項の相談を⾏い、⼜は事業主による当該相 談への対応に協⼒した際に事実を述べた場合について準用する。
<育児・介護休業法(抄)>]
(職場における育児休業等に関する言動に起因する問題に関する雇⽤管理上の措置等) 第25条 事業主は、職場において⾏われるその雇用する労働者に対する育児休業、介護休業その 他の⼦の養育⼜は家族の介護に関する厚⽣労働省令で定める制度⼜は措置の利用に関する⾔動 により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切 に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 事業主は、労働者が前項の相談を⾏ったこと⼜は事業主による当該相談への対応に協⼒した際 に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはな らない。
顧客(カスハラ)からのハラスメント
企業においては、顧客からのハラスメントであるカスタマーハラスメントも、問題となっています。そういった問題に対し各事業所は対策を講じ、職員の安全を配慮する義務があります。カスタマーハラスメント対策においては、以下のような問題点も指摘されています。
①職場のパワーハラスメントと比べて実効性のある予防策を講じることは一般的には困難な面がある。
②顧客には就業規則など事業主がつかさどる 規範の影響が及ばないため、対応に実効性が伴わない場合がある。
③顧客の要求に応じないことや、顧客に対して対応を要求することが事業の妨げになる場合がある。
④問題が取引先との商慣行に由来する場合には、事業主ができる範囲での対応では解決に つながらない場合がある。
⑤接客や営業、苦情相談窓口など顧客等への対応業務には、それ自体に顧客等からの一定程度の注文やクレームへの対応 が内在している。
重要な点は、「うちはカスハラの要求には応じません」という確固たる意思を、事前に示すことが重要です。
また、日頃から顧客との信頼関係を築いておくことは必須となります。
カスハラに発展する要因としては、この信頼関係が十分に関係しております。
日頃から、コミュニケーションエラーが発生していないかなど、信頼関係に関わる部分については、定期的に評価していくとよいでしょう。
また、あらかじめカスタマーハラスメントの判断基準を明確にした上で、企業内の考え方、対応方針を統一して現場と共有しておくことが重要です。
それでも、カスハラに対応しなければならなくなった場合には
・1人では対応しない
・何らかの形で記録を残す(ビデオや音声が難しければ、メモでもOK)
・不用意に相手の要求を受け入れない
そして
1.顧客の言っていることが事実なのか、その事実が企業側の過失のせいなのかを確認します。そして、顧客の要求が妥当かどうかを見極めます。
2.1と併せて顧客の要求を実現する方法が、社会的に受け入れられるものかどうかも確認します。
患者(ペイハラ)やその家族、からのハラスメント
病院や施設では、患者やその家族から暴力・ハラスメントを受けることもあります。
女性が多い職種であること、身体的な接触を伴うケアを行うことなどから、看護職はハラスメント被害のリスクが高いとされています。しかし、その対策はそれぞれの職場に委ねられているのが現状です。
患者家族の義務
診療契約はいわゆる双務契約であり、医療者側の患者に対する「診療義務」のみではなく、患者側に対しても「医療者の診療に協力義務」が課されています。
患者家族は、当該病院に通院や入院した以上、病院の施設管理権に従う義務があるでしょう。つまり、当該医療者側の指示や指導に従わなければならず、当然ながら看護職員に対してもハラスメントを行うことは許されません。
患者や利用者に寛大であること≠ハラスメントを放置
ではありません!!
しかしながら、患者家族がハラスメントを行うようになった経緯についても無視できません。つまり、インフォームドコンセントはきちんと行われていたのか?看護ケアや処置においても同様です。
患者とのトラブルの多くは、コミュニケーションエラーにより信頼関係が崩壊した状態から発生します。
日頃から、しっかりと信頼関係を築く努力により、ハラスメントを防止できるかもしれませんね。
患者家族から看護職が受けるハラスメントの実態
看護職等が受ける暴力・ハラスメントに対する実態調査と対応策検討に向けた研究
平成30年度における看護職等に対する暴力等の実態は、患者・家族等による身体的暴力、精神的暴力、セクシュアルハラスメントのいずれかの報告があった施設は85.5%であった。暴力の内容別にみると、患者による身体的暴力が最も多く、次いで精神的暴力、セクシュアルハラスメントへと続く。暴力等による他部署や警備員への応援依頼は全報告件数のうち14.7%、警察への届出は2.8%であった。看護職等の労災適用があった施設は22.4%、身体的受傷は41.0%、精神的不調は15.6%、暴力が原因で看護職等が休職した施設は5.6%、離職した施設は3.9%であった。
詳細リンク
病院・施設等事業所の義務
患者家族から看護職員を守るための対策について、国から支援・啓発をしてもらうような要望が記載されています。
自分がハラスメントを受けたら
実際に自分がハラスメントを受けたらどうすればいいでしょうか?
1 証拠を残す
①メモや録音、録画を残す
ポケットの中には、いつもメモ帳が入っていますか?
パワハラと思われる行為をされた場合は、いつどこで誰が何を何のために(5w1h)したのかを記録しましょう!そして、その時の気持ちも書き留めておきましょう。
事前に撮影(写真やビデオ)や録音を取る準備ができる場合には、それも有効となります。
②SNS
加害者がSNS内で自分のことを侮辱したような発言した場合には、それをスクリーンショットで残しておきましょう。
③同僚からの証言
ハラスメントの現場に同僚が居合わせていた場合、同僚が証言者となってくれる場合があります。
④診断書
パワハラが原因で身体・精神に何らかの傷害が生じた場合には、医師に診断書を記載してもらいましょう。一方でその傷害が、パワハラと関連性があると認められる必要があり、みと認められない場合もあります。
2 周囲に相談する
一人で悩まず、まず同僚や上司に相談しましょう。また、会社や病院には、独自で外部のハラスメント等の相談員を設置している場合もあります。パワハラは我慢していても解決しません。それどころかエスカレートする可能性があります。周りの協力を得ることで、パワハラを行う本人が自らの行為に気づく場合があります。
⚠最近SNSに自身が受けたパワハラについて投稿している方が散見されますが、場合によっては自らが加害者となるリスクがありますのでそのような行為は避けるのが賢明です。
3 勤務先の会社または病院の人事担当者に相談する
同僚や上司にも相談できない場合は、人事部や会社内または病院内の相談窓口に相談しましょう。組織は、相談者が不利益にならないよう、プライバシーの確保を配慮することを求められています。
4 外部の相談窓口に相談する
会社内、または病院内に相談窓口がない場合や、院内では解決できない場合は、外部の相談窓口に相談しましょう。病院でハラスメント等の外部相談員を雇っている場合もありますし、全国の労働局・労働基準監督署にある総合労働相談コーナーは、無料で相談を受け付けており、電話でも相談できます。
職場がハラスメントに対応してくれない場合
ハラスメントに対応してくれない場合には、どうのように対処すればいいでしょうか?
以下の3つの方法を提案いたします。
1 外部機関に相談する
下記、タブをクリックすると、リンクが表示されます。
2 弁護士に相談する
病院側が対応してくれない場合には、訴訟に発展することもあるでしょう。その場合には、弁護士に相談してみましょう。インターネットで検索すれば、労働問題に関する弁護士のホームページがたくさん出てきます。その中には、これまでの訴訟の事例が掲載されている場合もあります。ハラスメントが認められた場合とそうでない場合について、参考になるかと思いますので、一度のぞいてみるのもよいでしょう。
3 部署異動または転職する
だれかのせいで、部署異動したり、転職したりするのは腑に落ちないでしょう。しかし、異動や転職は、必ずしもネガティブな行動とは言えません。むしろ、自分のキャリアアップ、ステップアップの機会といったポジティブな行動とも言えます。
ハラスメントを報告した後の流れ
1 ヒアリング
事実関係を把握するために、ヒアリングが行われます。
ヒアリング対象者は、相談者とハラスメント行為をしたとされる者の両者に行います。必要に応じて関係者(周囲の第三者)に対しても行うことがありますが、たいていの場合は行われるかと思います。
ヒアリングに協力した場合に、上司から不当に扱われる心配があるかもしれませんが、上記に示した通り、プライバシーの確保を配慮することを求められていますので、安心して協力してください。
2 事実確認
関係者からのヒアリングが終了したら、その結果を踏まえてハラスメントが実際にあったのかどうかについて判断することになります。
→ハラスメント行為が認められなかったと判断された
ハラスメント行為が認められない理由を、相談者とハラスメント行為をしたとされた者に対して、病院に側から説明がされます。また、今後両者の関係性が悪くならないような対策も行います。
→ハラスメント行為が認められると判断された
ハラスメント行為が認められた場合、加害者に対して何らかの処分を下すか下さないかの協議が行われます。
あらかじめ就業規則に定められているところに従って、厳重注意(または始末書)、出勤停止、諭旨解雇、懲戒解雇等の懲戒処分をくだすことになります
懲戒解雇を希望する被害者もいますが、病院側がハラスメント加害者から不当解雇とだと訴えられるケースもありますので、懲戒解雇は非常に難しいと思ってください。
3 再発防止
加害者に対しての処分が下されたからといって、解決というわけではありません。病院側は、再発防止に向けた取り組みを行うことが必要です。
被害者の方は、病院側がどのような解決防止策を行ったのか、確認するとよいでしょう。